UXエバンジェリスト川西さん

UXエバンジェリスト川西さん

Clock Icon2012.01.25

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こんにちは。くろの(福田)です。

日本マイクロソフトデベロッパー&プラットフォーム統括本部でUXエバンジェリストを担当されていた川西裕幸さんが2012年1月20日(金)にお亡くなりになりました。

なんどか川西さんとはUX絡みでお仕事をご一緒させてもらいました。それらを少し振り返ってみました。

自分の川西さんの印象はUXエバンジェリストの川西さんというイメージしかなく、3Dゲーム開発の神様(?)である事などはお亡くなりになった後に知りました。

■二人のUXエバンジェリストに出会うまで

自分は.NET周りの技術は2007年にクラスメソッドに入社するまで全く触れていませんでした。クラスメソッドに入ってからSilverlightで初めて.NETに触れた感じです。.NETやC#の基礎をすっ飛ばしてSilvelightでのモノづくりに飛びついていた思い出があります。それまでやっていたFlex同様、すぐに『アプリケーションのUI』が構築でき、従来の技術では難しいようなリッチな機能が簡単に実現する状況に感動し、わくわくしていました。まだ、その頃はUXなどという言葉も知らない状況でしたが、Flex同様Silverlightにも『何かアプリケーション開発シーンを変えるポテンシャル』があるのではないかとその頃も感じていました。

マイクロソフトの方と一緒にセミナーを開催したり、サンプルアプリケーションを構築したりし始めたのが2009年頃からです。最初はReMIX TokyoでSilverlightのスピーカーをやらさせて頂いたのが初めてかと思います。その後、マイクロソフトの春日井さん(@ykasugai)とSilverlightのセミナーを共催させて頂いたりしていました。

2010年頃になると、少しずつUXという言葉を聞くようになりました。そのころからだと思いますが、マイクロソフトにUXの普及を専任で担当するエバンジェリストの方が登場しました。その頃から今まで、マイクロソフトでUXエバンジェリストの肩書きで活動されている方は、川西さんと春日井さんの2名だけだと思います。セミナー等でお会いする事が多かった春日井さんとはUXに関して色々とお話しした思い出があります。

日本国内でのRIAやUXの普及がなかなかうまくいっていないという状況が続いていたこともあり、UXに関するセミナーもほとんどない中、私が川西さんとお会いしたのがマイクロソフトが開催した第1回UXデザインワークショップです。

■PROJECT UX : 第 1 回ユーザー エクスペリエンス デザイン ワークショップ

マイクロソフトのUX活動を広げる活動の一環として、実際にUXの設計・デザインプロセスを体験するワークショップが2010年7月に開催されました。ベータ版的にプライベートで開催されるという事で、社内で手を挙げて最初の回に参加させて頂きました。ワークショップではファシリテータの一人としてもちろん川西さんも参加されていました。

ペルソナの作成やシナリオの作成、ワイヤーフレームの構築などをUXデザインのワークフローを体系立てて本格的に体験したのはこのワークショップが初めてでした。

このワークショップは非常にためになり、知識の整理にもなるので、結局自分の所属部署のデザイナー全員に参加してもいました。

■クラスメソッド向けセミナー

前述のUXデザインワークショップの後、なんとクラスメソッド専用のUXセミナーを開催していただきました。それが2010年の11月9日です。

そのセミナーの川西さん発表資料のPPT(UX for ClassMethod.pptx)があったので、その中のUXのメリットの重要な部分を下記に抜粋してみました。

  • UXのメリット
    • ユーザーにとって
      • 高いユーザーエクスペリエンス
      • 有用、集中できる、効率的、満足
    • 顧客にとって
      • 費用対効果(ROI)
      • 品質向上
      • 生産性向上
    • SI・開発会社にとって
      • 製品・サービスの競争力
      • 開発コスト・リスクの削減
  • しかし1
    • ROIや事例は補完に過ぎない
    • いくら事例を出しても納得しない顧客もいる
      • それは我が社と違うから
      • 日本事例じゃないから
      • それは条件が違うから
    • ユーザーが困っている事を知らない
    • 戦略が無い、ITをコストとしか見ていない
  • しかし2
    • 重要なのはテクノロジーではなく、デザイン
      • デザインとは構築するものを構築する前に計画する事(Cooper U Interaction Design Practicum)
    • テクノロジーやツールは、そのデザインを効率的に実装する手段
  • つまり・・・
    • 最新のRIAテクノロジーやツールを使うだけで、優れたUXのサービス・製品が開発できるわけではない
    • UXをデザインするためのプロセスとスキルが必要
    • ユーザーを代弁し、ユーザーの満足に責任を持つ役割が必要
  • なぜUXデザインが必要なのか
    • ソフトウェアはアフォーダンスを持たない
      • 適切なデザイン無しではユーザーが混乱する
    • 設計者・開発者はユーザーの代弁者ではない
      • ふるまいと、その背後にあるニーズやゴールがわからない
      • 使いにくいUIにしようと考えている開発者などいないが、納期とバグ対策の方が大事
  • しかし
    • UXデザインは「銀の弾」ではない
      • UIデザイン時の「なぜ?」に答えるいとぐちを提供
    • UXはコンテキスト依存
      • 客観的に絶対に正しいUXなど存在しない

改めてソフトウェア開発、アプリケーション開発、システム開発の基本の基本にUXがあるのだなと考えさせられました。

■クラスメソッド、マイクロソフト共催UXセミナー

2011年に入り、ちょうど一年前くらいになりますが、2011年1月28日にマイクロソフトさんの引っ越したばかりの品川本社のセミナールームでUXのセミナーを1度だけ共催させて頂きました。
この時にも川西さんにはスピーカーとしてUXの基本的な考え方に関してお話ししていただきました。クラスメソッドとして、UXだけでのセミナーの開催は初めてだったので、自分的にはいつもと勝手が違ったという事もあり、準備もなかなかしっかりできず、ご迷惑おかけしてしまった思い出があります。

このセミナーはUXだけのセミナーという非常にレアなセミナーということで、思い出に残っているセミナーでもあります(ひょっとすると新しい品川のセミナールームでやった最初のセミナー???)

■RIACに呼ばれた

最後にお話しさせて頂いたのは、2011年6月に私がRIACに呼ばれた時でした。

RIACのユーザビリティ研究ワーキンググループは2011年度から川西さんを新しいリーダーとし、『業務システムにおけるUXデザイン、ユーザビリティー・テストについてのガイド作成』を行っているという事で、クラスメソッド社内でどのようにRIA案件を進めているかに関してワーキンググループの皆さんにご紹介されて頂きました。

このような「あまり国内で広がっていないがほんとうは必須の概念・技術の普及」を川西さん行っている状況は、実は過去の3Dゲーム作成の現場での状況と全く同じであると、下記ブログを読んで知りました。

15年前の日本の3Dゲーム開発初期のころに、日本のゲーム開発技術者の3Dに関する技術情報、知識、教養が足りていない時期があり、そこから、川西さんがCEDECでの活動や洋書の翻訳(Game Programming Gems等)を通じて3Dゲーム開発の基礎を広められていました。

このような「欧米では当たり前だが日本では決定的に知識や経験が足りていない、またはそもそも考慮されない」事は(業務)アプリケーション開発でも多く、その一つがUXです。その普及の基礎をマイクロソフトという従来ではあまりUXというイメージの無かった企業が改めて行おうとしていた、その活動グループ(UX&クライアントプラットフォーム推進部)の中に川西さんがいたというのは偶然ではないと思いました。

■最後に

ちょうど今RIAの開発プロセスをクラスメソッドではまとめていて、サイクロンという名前を付けて資料を公開し始めました。この資料には上記のUXデザインワークショップなどでの弊社社員の参加経験の影響も出ていると思います。また品川に行った際には春日井さんや川西さんにもUX周りの部分を見てもらって感想を頂きたいと思っていたところですが、川西さんにはもうチェックしてもらえなくなりました。

[slideshare id=11107178&doc=cyclonepresentation0100-120117071929-phpapp02]

ゲーム開発に関しても、UXの普及に関しても、大きな柱の一つを失ったと言えるかもしれません。そして今年で言えば、Windows PhoneやKinect、Windows 8、HTML5などUXが注目される技術がどんどん出て来るという所で、川西さんが亡くなられたという事は、少しそういった技術に関してのUXの普及が停滞してしまうかもしれません。しかし、マイクロソフトの残りの皆さん、特にUX&クライアントプラットフォーム推進部のエバンジェリストさんたちが全力で技術の楽しさや素晴らしさを川西さんに代わって必ず我々に伝えてくれると思います。

 

(なんか技術ブログみたいな感じで、しかもサイクロン宣伝ブログのようになってしまいすいませんorz)

■リンク

マイクロソフトの同僚のエバンジェリストさんたちのブログ

(私の好きな画像の貼ってあるブログ)Kinect for Windows SDKが初めて公開され、楽しそうに踊っている川西さん。

@Cronoloves

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